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最高裁判所第一小法廷 昭和45年(オ)250号 判決

主文

理由

上告代理人清水賀一の上告理由について。

所論の点に関する原審の事実認定は、挙示の証拠に照らし肯認できる。

案ずるに、公正証書には当該請求権が具体的に表示されていることを要し、またこれをもつて足りるのであるから、請求権の発生原因として記載されている事実が多少真実の事実と一致しないところがあつても、その記載により当該請求権の同一性が認識できる以上は当該公正証書は真実の請求権と一致する部分にかぎり当該請求についての債務名義としての効力を有するものと解すべきである(大審院昭和五年(オ)第四一八号同年一二月二四日、民集九巻一一九七頁参照)。ところで、原審の適法に確定した事実関係によれば、本件公正証書の貸付日の記載は事実と相違するが(なお、利息については、当事者間の月三分の約定の範囲内で年一割八分と記載されていることについては、なんら問題はない。)昭和三六年六月一〇日にはじまる継続的な金銭貸借関係の取りまとめとして、本件公正証書が作成された昭和三八年七月一六日に前記の金七〇万円の準消費貸借契約が成立し、被上告人は、その貸金債権を有していたというのであるから、本件公正証書に貸付日とされている昭和三六年六月一〇日から同三八年七月一五日までの間の右準消費貸借上の貸金債権に対する利息の部分についてはその執行力を有しないが、その余の部分については、本件公正証書は債務名義としての効力を有するものということができ、これと同趣旨の原判決の判断は正当であり、原判決に所論の違法は認められない。所論は、原審の認定にそわない事実を合わせ主張して原審の専権に属する事実の認定を非難し、その認定と異なる事実関係にあることを前提として原判決に違法があるというにすぎず、前掲大審院判例中所論引用の判示部分は、本件と事案を異にし適切でない。原判決に所論の違法は認められず、論旨は採用することができない。

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